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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2599号 判決 1960年1月27日

控訴人・附帯被控訴人 被告 国 代表者法務大臣 井野碩哉

指定代理人 真鍋薫 外三名

被控訴人・附帯控訴人 原告 株式会社日本相互銀行 代表者取締役 高木武

訴訟代理人 徳田実 外一名

主文

本件控訴および附帯控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴の費用は被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。被控訴人の附帯控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。原判決中被控訴人敗訴の部分を取り消す。控訴人は被控訴人に対し、さらに六万二千十六円およびこれに対する昭和三十二年十一月二日から支払済に至るまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述および立証は、控訴代理人において、末尾添付別紙第一の準備書面記載のとおり陳述し、被控訴代理人において、末尾添付別紙第二の附帯控訴の理由書記載のとおり陳述したほか、いずれも原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

(一)  成立に争のない甲第二号証、原審における証人稲谷朝三の証言により真正に成立したと認める甲第一号証、同第三号証ないし第七号証、同第八号証の一ないし六、同第十一号証、原審における証人田村英俊の証言により真正に成立したと認める甲第九号証、同第十号証、並びに右証人稲谷、同田村の各証言によれば、次の事実が認められる。すなわち、被控訴人は、昭和二十八年四月二十九日、訴外東邦通商株式会社(以下、東邦通商という)に対し、被控訴人主張の如き約定で金員を貸与することを契約し、同日その担保として訴外岩田チヨから同人所有にかかる被控訴人主張の建物(以下、本件建物という)の上に第一順位の根抵当権の設定を受け、翌三十日その登記を経たこと、岩田チヨは昭和二十九年一月八日本件建物を大洋セメント興業株式会社(当時の商号は株式会社相互金庫、以下大洋セメントという)に売却し、翌九日その所有権移転登記を経たこと、(本件建物につき右根抵当権設定登記および所有権移転登記を経た事実は、当事者間に争がない)他方、被控訴人は、前掲約旨に従いその主張の如く東邦通商に対し金員を貸与し、結局、昭和三十年九月二十八日現在の計算において、被控訴人主張の如き元本百万円、遅延損害金二十八万五十円、合計百二十八万五十円の貸金債権につき本件建物の上に抵当権を有していたこと、以上の事実を認めることができる。

しかして、控訴人を代表する関東信越国税局が、昭和二十九年六月十二日、大洋セメントの控訴人に納付すべき昭和二十八年度源泉所得税および源泉徴収加算税合計千五百八十五万八千九十一円の滞納処分として本件建物を差し押え、昭和三十年十月十七日公売に付した結果、訴外楠田右平次がこれを代金百五十万円で競落し右代金を納付したこと、関東信越国税局は右競落代金全部を、大洋セメントの昭和二十八年度の源泉所得税(納期は昭和二十八年十一月三十日ないし昭和二十九年二月十日)および源泉徴収加算税合計百五十万円の支払に充当したことは、当事者間に争がない。

(二)  ところで被控訴人は、本来被控訴人は前記抵当権に基き、右競落代金の内から優先的に前記貸金元利金百二十八万五十円の弁済を受ける権利を有するにかかわらず、控訴人が前記の如く右代金全部を滞納国税に充当したのは、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号による改正前のもの。以下、単に法という)第三条の解釈を誤まつたもので、これにより控訴人は被控訴人の損失において右百二十八万五十円を不当に利得したものである旨主張する。これに対し控訴人は、先ず抗弁として、仮りに右充当が法律上失当であるとしても、元来、充当は法第二十八条の規定に基く行政処分であつて、それは法第三十一条の二以下の規定による再調査、審査および訴訟の対象となるものであるが、本件充当行為については重大明白な瑕疵があるものとは認め難いのみならず、被控訴人は右取消を求め得る期間を徒過しているから、右充当は有効な行政処分に基くものであつて、その間不当利得の成立する余地はないと主張するので、その当否につき判断する。おもうに充当の法律的性質が行政処分であるかどうかについては、学説上議論の存するところであるが、今、仮りにそれが行政処分であるという見解に立つとしても、法第二十八条の規定による充当処分は、税務官庁が公売代金等を配当し、租税債権の弁済を受け、これにより滞納処分手続を終了させるものにすぎず、それは実体上、配当金を受けるべき者の権利の存否、額、順位を確定する行為ではないと解するを相当とする。これ恰かも競売手続に関し、競売法第三十三条により競売代金を交付する行為は、実体上の権利を確定するものでないと解すべきこと(大審院昭和十六年十二月五日言渡判決、民集二〇巻一四四九頁)と、その軌を一にするものというべきである。(ちなみに民事訴訟法による強制執行については、配当に関する一連の手続が法律上特に定められており、また民事訴訟法第六百九十七条、第六百三十四条等の規定とも関連し、本件の場合と同一に論じ得ないものがある。尤も、登記簿に記入された物上担保権者は、強制執行手続においても配当要求をする必要はなく、法律上、当然の利害関係人として配当にあずかり得べき筋合であるから、右の如き担保権者は、たとえ配当表に対し異議を述べなくても、後日に至り、本来自己が有していた実体上の優先権を主張して不当利得の返還を求めることを妨げないとする見解も、理論上成立する余地があるけれども、この点は本件に直接の関係がないから、ここに詳論すべき限りでない。)いずれにしても、法第二十八条の充当配分に当つては、税務官庁は、実体上の権利関係を確定するものではなく、またこれを確定し得る権限を有するものと解すべき根拠は存しないから、法律上、抵当権者に配当すべき金員を誤まつて滞納国税へ充当した場合においては、たとえ右充当配分により滞納処分手続が終了し、かつ再調査、審査または訴訟によつてこれが取消変更を求め得べき期間が徒過したとしても、それがため抵当権者の実体上の権利関係(殊に租税債権に対するその優先権)に消長を及ぼすべきいわれはない。つまり右の場合は、国家の充当行為があつたというだけでは、国庫が実質上、その利益を保有し得べき根拠とはなし難く、したがつて国庫は民法第七百三条の規定に従い、本来配当を受けるべき権利があつた抵当権者に対して、右利益を返還する責に任じなければならないことは当然である。それ故、控訴人の前記抗弁は採ることを得ない。

(三)  次に、被控訴人の本件抵当権付債権と控訴人の前記大洋セメントに対する国税債権との優先劣後の関係につき按ずるに、法第三条の規定は、本件の如く、抵当物件が、抵当権設定後第三者に譲渡され、右譲受人の国税債務に基き滞納処分が行われる場合においても、その適用があるものと解すべきである。しかして右規定によれば、国税に対し優先し得る抵当権の適格としては、先ずその設定が国税の納期限より一箇年前に在ることを必要とするところ、右にいわゆる一箇年前という要件を具備するかどうかを判定するに当つては、抵当物件の譲受人の納税義務を基準とすべきものではなく、抵当権設定当時における抵当権者と設定者との関係を基本とし、設定者の納税義務を基準とすべきものであると解するを相当とする(最高裁判所昭和三十二年一月十六日言渡判決、民集十一巻一頁参照)。けだし、抵当権を設定させて金員を貸与しようとする者は、予め当該抵当権設定者の性格、資産信用、納税状況等につき十分な調査をなす機会があり、したがつて設定者が当初から国税を滞納していた場合はもちろん、将来一年以内に滞納を生じた場合においても、その滞納額の範囲で国税を抵当権に優先させることとしても、未だ必ずしも抵当権者に対する不当に苛酷な取扱であるとはいい難いのに反し、譲受人の納税義務を基準とすべきものとすれば、抵当物件が多額の国税を滞納している第三者(譲受人)に対し譲渡されたような場合、抵当権者としては、自己の全く予測不可能な偶然の譲渡により、優先弁済を受ける権利を不当に奪われるという不合理な結果を招来するに至るのであつて、かくの如きは到底法第三条の趣旨に適合した解釈であるとは認め得ないからである。それ故、本件において前記法第三条の規定を適用するに当り、同条所定の一箇年前の要件を具備するかどうかを判定するについては、抵当権設定者である岩田チヨの納税義務を基準とすべきものであり、結局、被控訴人において、本件抵当権の設定が岩田チヨの国税の納期限より一箇年前に在ることを公正証書をもつて証明した範囲において、被控訴人の債権は国税に優先するものというべきである。以上と見解を異にする控訴人の主張(原判決事実摘示(二)の(1) および(2) 参照)は、これを採用し難い。

ところで成立に争のない乙第一号証によれば、岩田チヨは前記根抵当権設定登記のなされた日から一年後である昭和二十九年四月三十日現在において、原判決末尾添付の別表一記載の如く合計六万二千十六円の国税を滞納していたことが認められ、右以外には国税の滞納がなかつたことは弁論の全趣旨に照らし明白であり、かつ原審における証人田村英俊の証言および前顕甲号各証並びに弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件滞納処分に当り、当該収税官吏に対し、証憑書類(国税徴収法施行規則第十二条第三項参照)を添えて右抵当債権の存在を証明し、その支払を求めたことが推知できる。しからば、右事実関係の下においては、本件建物の抵当権者である被控訴人の前記百二十八万五十円の債権は、前段説示の理由に照らし、前記岩田チヨの滞納国税額六万二千十六円の限度においては国税に優先し得ないけれども、これを控除した百二十一万八千三十四円の限度においては国税に優先する関係にあつたことは、もちろんというべきである。

なお控訴人は、岩田チヨには原判決末尾添付の別表二ないし五記載の如き合計十四万四百八十円の地方税の滞納があり、これについては地方税法の規定により、当然地方団体が抵当権者に優先するから、その範囲においても、被控訴人は優先権を主張できないことは、当然の筋合である旨主張する(原判決事実摘示(二)の(3) および本判決末尾添付の控訴人の準備書面の三参照)。しかし、地方団体が一般の私債権に優先して地方税を徴収し得るのは、地方団体が自らその租税債権に基き滞納処分または交付要求等の手続を採つた場合に限られるのであつて、かかる手続を採らない以上、たとえ債務者の財産が換価された場合においても、地方団体が法律上当然にその代金から優先配当を受ける権利を有するものということはできないのである。(このことは、債務者がその財産を任意に処分した場合を例に採れば極めて明白であるが、なお以上の関係は、恰かも不動産に対する強制執行または任意競売の手続において、登記簿に記入のない一般の先取特権者は、特にその権利を証明して届け出た場合でなければ、当然には優先配当を受ける権利を有しないのと同様の関係にあるというべきである。)ところで、乙第二号証、第三号証によれば、岩田チヨには控訴人主張の如き地方税の滞納があつたことは明らかであるが、しかし右地方税については、当該地方団体が交付要求をした形跡は認められないのみならず、控訴人は、そもそも大洋セメントが地方税を滞納した事実をなんら主張立証していないから、本件において地方団体が交付要求をなし得る根拠も存しないわけであり、要するに、この点に関する控訴人の主張は、全く法理を無視した不当の見解というの外なく、これを採用できないことは、もちろんである。

(四)  次に不当利得の額につき按ずるに、被控訴人の前記百二十八万五十円の債権のうち、被控訴人が国税に優先できるのは百二十一万八千三十四円の限度であり、爾余の六万二千十六円の債権については国税に優先できないものであることは、すでに説示したとおりである。しからば、本件競落代金中、右百二十一万八千三十四円は、本来、被控訴人に対し当然交付されるべき筋合にあつたものであるから、これを国税に充当したのは、その限度において、まさしく控訴人がこれを不当に利得したものというべきである。(法第二十八条第二項によれば、競落代金のうちから、先ず滞納処分費を控除すべきであるが、滞納処分費の存在および額については、控訴人の主張立証がないから、本件においては、これを顧慮するに由ないものである。)しかして本件競落代金中、右以外の部分については、被控訴人は、もともと国税に優先する権利を有しないのであるから、これについては、国税徴収権が抵当債権に優先することは、法第二条第一項の規定に照らし疑を容れないところであり、したがつて右百二十一万八千三十四円を超える部分については、控訴人がこれを国税に充当したのは、控訴人において、これを不当に利得したものといい得ないことは当然である。被控訴人は、附帯控訴の理由として、右と異なる解釈を主張するが(本判決末尾添付の附帯控訴の理由書参照)、ひつきよう独自の見解であつて、採用に由なきものである。

(五)  結論

以上の次第であるから、被控訴人の本訴請求は、控訴人に対し前記百二十一万八千三十四円およびこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明白である昭和三十二年十一月二日以降支払ずみに至るまで年五分の遅延損害金の支払を求める限度においては正当であるから、これを認容すべく、その余は理由がないから、棄却すべきである。それ故、右と結論を同じくする原判決は相当であつて、本件控訴および附帯控訴は、いずれも理由がないから、これを棄却すべきである。なお、被控訴人は、当審において仮執行の宣言を求めているが、被控訴人敗訴の部分については仮執行の宣言を付する余地はないし、また被控訴人勝訴の部分については、すでに原判決が仮執行の宣言を付しているから、当審において重ねてその宣言を付すべき限りでない(尤も、当裁判所は、さきに控訴人の申立により、原判決の付した右仮執行の宣言に基く執行を停止する旨の決定を発しているけれども、右執行停止の決定は、本判決の言渡と同時に当然効力を失い、原判決中、被控訴人勝訴の部分は、これについて今後、新たに執行停止の決定がなされない限り、当然に執行し得べきものである)。よつて、控訴費用および附帯控訴の費用につき、それぞれ民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 岡咲恕一 判事 田中盈 判事 土井王明)

第一控訴人の準備書面

一、充当行為の効力について。

原判決は本件充当行為は無効であるとせられる。しかし、行政行為が重大かつ明白なかしをふくむが故に無効であるというためには、当該行為の主体において無権限、内容において実現不能又は不明確、手続又は形式において国民の利益を著しく害する程度の欠缺等があることを要すると考える。したがつて、法規の明白な誤解の場合はともかくとして、法令の解釈について各種の意見が対立している場合とか、裁判所の判例によつて承認されてきた法令の解釈にもとずいてなした行為がその後の判例の変更の結果、誤つたものと解されたからといつて直ちにその行為が当然に無効であると断ずべきものではない。本件充当行為は、原審で控訴人が主張したような見解に基いてなされたものであつて、一概に法三条の解釈に反し又は判例とことなる見解ともいえない以上、明白なかしがある場合にはあたらないというべきであろう。

更に、原判決はかりに右充当行為が違法であるにとどまるとしても、控訴人が競落代金を取得すべきや否やは実体的な徴収権の存否により判断すべきであるから、実体的徴収権のない控訴人のなした本件充当行為は被控訴人との関係で不当利得となるとの趣旨を判示される。しかし、本件においては、控訴人は滞納者大洋セメントに対し一五、八五八、〇九一円の租税債権を有し、これに基いて大洋セメントに対し滞納処分をなしうること、すなわち控訴人が実体上徴収権を有することは当事者に争がないのであるから、実体上の徴収権の存否を問題とすることの当否はしばらくおくとしても、原判決がこの点を理由とせられたことはその前提において誤つているものと考える。

又、原判決は、実体上の権利のない債権者が既存の債務名義を利用して強制執行により弁済をうけた場合、債務者は債権者に対し不当利得返還請求権を有することと本件を比較しておられるけれども、これは本件と事情を異にする。すなわち、本件では実体上租税債権を有する控訴人と抵当債権者たる被控訴人との優劣が問題なのであつて、国が租税債権を有しないとせられた場合の国と債務者たる大洋セメントとの関係が問題となつているのではないからである。しかして、控訴人と被控訴人との優劣は、本件充当行為が行政行為であるとせられる以上これによつて一応確定されたのであるから、所定の手続を経て取り消されない限り、これとことなる法律関係を主張することはできないのである。もし、この関係を強制執行の場合と比較するとすれば債権者間において債権の優劣について争があるときは、その当事者間で配当異議訴訟により、その順位、額を確定すべく、この手続を経ず又はこれを経て配当表が確定した場合には、当該当事者間においてはこれとことなる主張をしえず又は不当利得の成立する余地のない関係と対比せられるべきであろう。

なお、原判決は、控訴人の右充当行為は法三条の解釈を誤つてなしたもので、既に国税を納付した者から、重ねて同一国税を徴収したのと何等その選を異にしないと判示される。しかし、さきにも述べたように、控訴人は滞納者大洋セメントに対し国税の徴収権を有しており、右充当行為の範囲内で滞納国税は消滅するのであるから、なんら二重の国税徴収をしたことになるわけではない。本件充当行為の当否はもつぱら控訴人と抵当債権者たる被控訴人間の優劣をいかに解するかにかかつているのであつて、債務者大洋セメントとしては充当行為の当否によつて、その利害に影響を及ぼすものではない。けだし、もし控訴人の見解にしたがえば、充当行為の範囲内で租税債務が消滅するし、又被控訴人の主張によれば公売代金額の範囲内で抵当債務及び国税債務が消滅するのであつて、右公売代金によつて、その代金額の範囲内で債務が消滅する点では同じであるからである。

二、国税の抵当権に対する優先権とその範囲について。

抵当不動産が抵当権設定後一年以内にその設定当時及びその後一年内に国税の滞納ある第三者に譲渡された場合における国税と抵当権との優先順位及びその範囲についての控訴人の見解及び本件に対する適用に関しては控訴人が原審で主張したところを維持するものであつて、この点に関する原判示には承服しがたい。

三、譲渡人の滞納地方税、公課相当額の充当について。

控訴人は、抵当物件の譲渡人(岩田チヨ)に地方税の滞納があり、その限度内では、抵当権者(被控訴人)は地方税に劣後する関係にあるから、その滞納地方税相当額を国税に充当しても抵当権者との関係で不当利得となることはないと主張するのであるが、原判決は二つの理由を上げてこれを排斥せられる。しかし、その理由とせられるところは根拠に乏しいと考える。

理由の一は、国税による大洋セメントに対する滞納処分に、地方税(大洋セメントの地方税の意であろうか。譲渡人たる岩田チヨの地方税がこれに交付要求することはありえないからである)が交付要求した場合、国税は地方税に優先するが、その限度を超えて地方税相当額まで国税が優先するとするのは許されないとせられるもののようである。しかし、本件の場合、かりに法三条の解釈につき原判決の解釈にしたがつたとしても、その優先順位は国税、地方税、抵当権の順となり、抵当権者は国税、地方税の合計額に相当する範囲内では、これらの国税、地方税に対し優先を主張しえないこととなる。そしてその国税が優先する額は譲渡人岩田チヨの抵当権設定後一年目の滞納国税相当額であるとされるのが原判決の解釈であるから、地方税について交付要求があればやはり、岩田チヨの抵当権設定後一年目の滞納地方税相当額については抵当権はこれに劣後することとなろう。この優先劣後の関係は交付要求の有無によつて変更せられるべき性質のものではなくこの種の抵当権に内在するものであるから、地方税相当額が地方税に充当されようが、それより優先する国税に充当されようが、後順位者である抵当権者としてはなんら影響を受ける筋合ではなく損害は生じえないのである。このことは、たとえば、一、二、三番の各抵当権者がある場合、一番抵当権者が二番抵当権者に対する配当を受けたからといつて、三番抵当権者が一番抵当権者に対しこれを不当利得として請求しえないのと同じであろう。したがつて、大洋セメントに対する国税による滞納処分である本件において大洋セメントに対する滞納国税のうち、岩田チヨに対する抵当権設定後一年目の滞納国税相当額は抵当権に優先すると原判決が解される以上、岩田チヨに対する抵当権設定後一年目の滞納地方税相当額も抵当権に優先すると解さざるをえないというべきである。大洋セメントの滞納地方税が交付要求をすると否とにかかわらず、それは抵当権者に交付されるべき性質のものではないのであるから、それが抵当権者に交付されないからといつて、抵当権者たる被控訴人は控訴人に対し不当に損害を蒙つたとして不当利得返還請求権を有する筈はないのである。

理由の二は、控訴人のように解すると抵当権者の予測可能性の限界を超える結果となるというにある。しかし、抵当権者が国税、地方税の限度内では劣後することは法律の建前であるから、その分だけ抵当権が制約を受けることは充分承知の上で取引関係に入る筈のものである。したがつて地方税に充当されるべき相当額が国税に充当され、抵当権者に交付されないことは抵当権者の予測を裏切ることにならないと考える。

なお、原判決は、抵当権設定者がその抵当不動産の差押を免れるため、これを他に譲渡した場合には、国税徴収法四条の七を活用すべきことを強調される。しかし同条(及び一五条)は、譲渡人の滞納処分に際し、譲渡人譲受人間に特殊な関係又は主観的要件の存在を前提として徴収確保のためとられている特殊な制度であるに反し、本件は譲受人の滞納処分について、目的財産に抵当権があつた場合に国税と抵当権との優先権を如何に調整すべきかの問題であつて、この両者は制度上全く類型を異にするものであるから、前者の制度があるからといつてその故に後者の問題に対する解決が左右されるべき筋合のものではない。

第二被控訴人の附帯控訴の理由

一、被控訴人(附帯控訴人)は原審に於て控訴人(附帯被控訴人)に対し不当利得金一、二八〇、〇五〇円也の支払を請求したるに対し原判決は内金六二、〇一六円也に付ては被控訴人は控訴人に優先権を主張し得ないものとし此限度に於ては被控訴人の請求を認容せず排斥したのである。然し乍ら被控訴人が控訴人に対し優先権を主張し得るか否かは抵当権設定当時に於ける抵当権者と其設定者との関係を基本とし抵当権設定者の納税義務を基準とし考えるべきであり抵当権設定者が抵当不動産を第三者に譲渡したとき其第三者に国税の滞納があることによつて直に被控訴人が国税徴収法第三条に則り受くる保護を失うべきでない事は原審以来主張する処である。然して原判決は本件に於て訴外岩田チヨが抵当物件を株式会社相互金庫に譲渡した処、岩田に於て被控訴人の為め根抵当権を設定した当時及其後一ケ年内に納期の到来した滞納国税合計金六二、〇一六円也存し此れについては被控訴人に優先権がなく此範囲の金額は控訴人が不当に利得したとは云えないとしているが、それはそれとしても前叙の理由から云つて競落代金一五〇万円也から右滞納国税金円を控除するも尚金一、四三七、九八四円也残存する処であり此残額の限度から被控訴人は当然其有する請求元利金一、二八〇、〇五〇円也の配当を受け得られる筋合であると云わねばならない。然るに原判決は此点を看過し被控訴人の請求金額から金六二、〇一六円也を控除して残額に付てのみ勝訴の判決を為したるは承服出来ないので茲に附帯控訴に及んだものである。

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